非公式日本語版

SICPはかつて第一版、第二版共に日本にて公式に翻訳が商業出版されていました。第二版を出版していたピアソン桐原が2013年8月にピアソングループから撤退し技術書の取扱を終了したため、日本語でSICPを読む機会は失われました。このことがこの翻訳を行うことの契機となりました。

実際にはその後、2014年1月付近に、寛大にも第二版の訳者、和田英一先生がオンライン上にてSICPの訳書、「計算機プログラムの構造と解釈」全文を公開して下さいました。この時点でこの非公式日本語版の価値は随分と小さくなりました。

しかし、その時、既に3章まで翻訳していたこと、そして非公式TexInfo版が2013年11月に大改訂を行い、当初の日本語には正式に対応していないtexi2pdfから変更を行い、XeLaTeXを採用したために、日本語でも美しい組版ができる可能性が出てきたことが、この原稿を廃棄することを押し止めました。

SICPのライセンスについてはインターネットアーカイブにて調べてみました。2001年1月にMITがSICPを寛大にもオンラインで無料で読むことができるように公開された時にはライセンスが指定されていませんでした。

2008年4月にMITはSICPのライセンスをCC BY-NCと指定しました。その後ライセンスは2011年10月に一旦CC BY-SAに変更されます。そして2年後の2013年9月に再びCC BY-NCへと戻されました。この事実がSICP原文のライセンスの解釈を難しくしています。ライセンスの変更はオーナーの自由ですが、ライセンシーはコンテンツ取得時のライセンスを尊重すれば良いからです。

最初に非公式TexInfo版を作成したLytha Aythはライセンス指定の無いSICP公開をWeb文化に基づくものだと理解しました。次にLaTeXの組版を開発したAndres RabaはCC BY-SAに基き正式な許諾の下、PDF版を作成しました。私の翻訳はPDF版のライセンスであるCC BY-SAに従うことが求められます。しかし、現在のMITが非商業を求めていることを鑑みて、Raba氏に許可を頂いた上で非商業制約を追加したCC BY-NC-SA 3.0にてリリースすることにしました。

CC BY-NC、及びBY-SAは共に翻訳の許可を明記しています。従ってこの翻訳にはLythaが心配したような法的問題は起こらないと信じています。しかし同時に、法的問題は常に一方的に起こされることがあることもまた現実です。従って読者の皆様には常にネットワーク上のデータは(そしてプログラムも!)消えてなくなってしまうシャボン玉であることを忘れずに御用心願います。

TeX、LaTeX環境の日本語対応を進めて下さった全ての関係者の皆様に感謝します。特に最新の情報を常に更新し続けて下さっているTeX Wikiの奥村~晴彦氏、W32TeXを自動でインストールし更新可能なTeXインストーラ作者の阿部~紀行氏、XeLaTeX向け日本語パッケージ“ZXjatype”を開発して下さった八登~崇之氏に感謝致します。

海外ではSICPの新しい形の開発が非常に盛んです。PDFはもちろん、epubやインタラクティブ版、Kindle版(mobi形式)、ClojureやJavaScriptによるSICP等が公開されています。この翻訳はCC BY-NC-SAですので非商業であればそのような派生や翻案に利用することが可能です。日本でもSICPの世界が広がっていくことを期待しています。

※ 校正御協力者様 (順不同、敬称略)

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